熊野三山を人力で巡る!(その1) パックラフトで熊野本宮~速玉大社

八兵衛

2022年05月05日 23:44




早朝、というか深夜2時過ぎに自宅を出発。
紀伊半島を南北縦断し、
太平洋に面した熊野川河口の町、新宮市に到着したのは夜明けの午前5時。

JR新宮駅近くのコインパークに車を停め、
パックラフトとキャンプ道具を抱えて
新宮駅前を午前5時53分に出発するバスに乗る。

さきほどハスラーで走った道を路線バスで戻り、
今日、パックラフトで下る熊野川の状況を偵察。
未明にハスラーで通った時に夜明け前で見えなかった川が見える。
ああ、やっぱり。
三日前に降った大雨の影響で川が濁ってる。
午前7時過ぎに熊野本宮前下車。

ひと気の少ない熊野本宮をまずはお参り。
お願いすることはもちろん、
これから始まる三日間の冒険旅の無事を祈願です!






さあ!
今年のGWの冒険は2泊3日で
熊野の3つの聖地「熊野三山」を人力移動での巡礼です!
具体的には、初日の今日はここ熊野本宮から熊野川河口の「速玉大社」まで約37kmをパックラフトで。
2日目は速玉大社からJR那智駅まで約16kmを折り畳み自転車で、
3日目は那智の滝のある「那智大社」まで約8kmを徒歩で!
移動距離は合計約60kmです。

今回は全て熊野古道の旅となります。
初日の熊野川下降ですが、これは「川の参詣道」と言われていて
古来より熊野川自体が熊野古道であります。

本宮前のコンビニでビールやウィスキーを買い、
本宮横の広い川原で準備を整え、午前9時ちょうど出発!


出発点から大斎原(おおゆのはら)の大鳥居を見る








川の水が濁ってるのが残念だけど
三日前の大雨の影響だから仕方ない。
その代わり増水気味で思ったより早く進む。

右側に「大斎原」(おおゆのはら)の大鳥居を見送り
目指すは熊野川河口の新宮の町。進路は南西。
ありがたいことに風は追い風。順風満帆。

心地よい速度で熊野川は流れており
大鳥居の近くの川原で遊んでた観光客から手を振ってもらえた。

やがて観光客の声も聞こえなくなり、
いよいよ一人きりのヒリヒリするような、
怖くもワクワクする冒険の世界に没入!

なんせパックラフトもカヤックも
僕は素人でまだまだ未知の世界。
急流部を無事に凌げるんだろうか、
転覆して溺れたりしないだろうか、と。
大袈裟だけど鉄火場に向かうバクチ打ちのような気分。
もちろん、もしも転覆してカメラや装備を失うことがあっても
熊野川の川幅と今日の水流なら、
ソロであっても命だけは何かなるだろう、という安心があるからですが。 

ただし、所々にある川の流路の屈曲部のアウトコースに設置されたテトラポット。
これだけは危険!
ここに吸い込まれたら脱出できない可能性が高いので
早い段階で流れの緩いテトラの対岸に漕ぎ寄せる。
これ、僕みたいなソロ素人は絶対です!






大塔川との合流手前に難所。
遠くから見入ると波が逆巻いてゴウゴウと轟音とどろく
凶悪な難所に見えたけど、
よく観察すると大波のど真ん中は無理だけど、
大波の脇なら今の僕でも行けるかもしれない。

頭に動画撮影用のアクションカメラを装着し
撮影しつつ、難所を漕ぎ抜けてみた。
ものすご怖かったけど、帰宅後に動画を見てみたら
難易度せいぜい1.5級以下程度。
全くなんてことない急流でした。
でも怖かったー!!

この程度が怖いとか言ってたら、この先ツーリングが楽しめないから
まずは難易度の高い急流下りを体験しておいた方がいいかも?









熊野川は昔から暴れ川で、
この日も水は濁ってますが、
この濁りやすい性質は今から11年前の
2011年8~9月の紀伊半島大水害が原因です。

全国的にはあまり知られていないようですが
この年、奈良県と和歌山県だけで70名以上の犠牲者が発生する大水害でした。
この傷跡は今もあちこちで残っており、
少しの雨ですぐに川が濁る谷が今でも多くあります。
そして近年になっても冬の減水期のダム湖で
当時の犠牲者の遺体が発見されることがあるほどです。
僕は紀伊半島でたくさん遊ばせてもらってますが
渓流釣りにしろ、登山にしろ、ドライブにしろ
今でもあちこちに斜面崩落の残骸を見かけます。

とはいえ2011年の水害だけが甚大なのではなく、
なにせ日本一雨量の多い尾鷲の町や大台ヶ原を抱える紀伊半島なので
以前にも大水害は発生してます。
1889年の水害は熊野川上流の奈良県十津川村が壊滅的な被害。
被災者は村を離れて開拓時代の北海道に移住することになりました。
今でも北海道には「新十津川町」という町がありますが
これは当時の奈良県十津川村からの移住でできた町だそうです。

この1889年の大水害で、
当時の熊野本宮があった「大斎原」も水害で流失被災し、
現在のいわゆる「熊野本宮」に移設したそうです。
ですんで熊野の1000年以上の歴史を思うと、
現在の本宮は移設してせいぜい130余年。
今でも本宮の聖地は「熊野本宮」よりも
「大斎原」なのかもしれません。


北山川との合流点。

さて。
熊野川の流れは僕の想定より早く流れ、
あっという間に大きな支流である北山川との合流点。
昨年の今頃、この北山川をパックラフトで下ってきて
この合流点で下船したものでした。
相変わらず北山川は水が綺麗で、
透明な北山川の水と、濁った熊野本流の水が交わらずに流れる。








ところで昨年4月に、さきほど通過した大塔川合流から
少し下流の志古という所まで13kmを下るのに3時間かかったのです。
しかもその時はパドル漕ぎっぱなしのヘビーな3時間。
今回下る距離は河口近くの速玉大社まで約37km。
単純計算だと漕ぎっぱなしで約9時間だけど、
休憩や昼食を考慮すると最低でも10時間必要で、
今夜は途中の川原でキャンプの予定でした。
だから積載荷物も多いし、薪まで積んでおります。

ところが増水のせいで予想外に流れが早く、
約15km進むのに僅か2時間少々。
もしやキャンプしなくても今日中に新宮の町まで行けそう?
川下りしながらビール飲むつもりだったけど
この日は流れが速く、度々急流区間があって
おちおちビール飲むとかノンビリしてられない!

急流区間はあるものの、川幅が広いので
流芯を避けて波の低い部分を進めば難易度低く
見た目ほど怖くはないことも分かってきた。
よしっ!
これなら今夜は夕方までに速玉大社の川原に到着できる!

・・・ところが。
時々どうしても川幅が狭まり、
急流で大波の荒ぶる箇所を避けられない時があり、
後で動画を見ると「うおー!」とか
「やばいっ!あかーん!」とか「ふんぬっ」とか
自分でもよくわからない掛け声とも泣き言ともつかない
変な声を出して、どうにか凌いでおりました。


この日一番の大波!



大波に怯む気持ちと、大波に負けない気合が相まって非常に情けない掛け声でした(泣)


まあ、それでもせいぜい2級程度の瀬だったので
カヤッカー的には初心者レベルですが、
個人的にはキャンプ道具一式を積んだ状態で
単独で2級の瀬を切り抜けられたのは嬉しかったです!

※急流のグレードを表す階級で1~2級は初級。
 3~5級以上が中級~上級で、6級は人類には不可能な瀬を指す。








結局、10時間必要だと思ってた距離を
6時間で下ってしまい、まだ午後3時前。
新宮市内到着直前で流れが止まり、
ゆるゆる漕いでいると上流からパックラフターが追い付いてきた。

彼は折り畳み自転車をフロントに積載し、
聞けばトレランしながら、自転車とパックラフトを併用するという
僕以上にアッグレッシブでパワフルな若人でした。
彼はこの後、上陸してさらに折り畳み自転車で走るとのこと。
今年はパックラフターによく出会う。
ブームが来てるのかもしれないね。




午後3時半。上陸。
速玉大社がすぐそこにあるけど、
お参りは明日朝にすることにして、
JR新宮駅まで1,5kmほどを荷物背負って歩き、
ハスラーに荷物を放り込んで発車!






もっと手前の川原でのキャンプ予定だったので
急遽今夜のテント場を探してウロウロ。
漁港や河川敷はイマイチでやむなく山に向かってみると、
標高200mほどの林道脇に空き地があったので
ここを今夜のねぐらとした。









車を停め、車道から見えない車の陰に
あぐら椅子やテーブルや小型の焚火台をセット。
ハスラーにはキャンプに最低限必要な道具類を積みっぱなしにしてるので
今夜みたいな突然の予定変更時に心強い。

夕方6時を過ぎ、すっかり夕方の雰囲気だけど
鳥の声を聴きながらビールでヒャッハーです♪

昼食用にパックラフトに積んでおいたオニギリ。
急流の緊張感で昼間はほ一個しか食べず、
2個残ったのでこれを晩飯とする。
あとはコンビニで買ったツマミを食べ、ビールを飲み
ウィスキーを舐め、虫の声や鳥の声を聞く。










今日一日、頑張った!
急流は怖かったけど、転覆せず漕ぎ切った時の
あの思わず吠えてしまう達成感は病みつきになるな。
(動画を見るとたびたび吠えてたワシです・・・)

冒険はやっぱりいいな。
怖くてキツくて大変だけど、ワクワクするこの感じ。
この感覚は初めて冒険に憧れた少年時代と全然変わらない。

明日は折り畳み自転車で山道の峠を越えたり
砂浜を自転車押して歩いたり、
明日もきっと大変だけどがんばるぞ!

その2へつづく


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